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UITERU

甘凌情報収集&創作ノート

『愛憎交錯7つのお題』-1

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甘寧×凌統

和解するずっと前の話です。文章です。

奪われた。

何をされているかわかって、爆ぜるように肩を押し返したものの、岩を押すかの手応えだった。

片方の手で腰をきつく抱き寄せられ、もう片方の手で顎をしっかりと掴まれている。
こいつは力の加減を知らないんだろう。指が食い込んで痛い。
声を上げようにも、口が口で塞がれているからなすすべがない。

口が、口で。

よりによって何でこいつなんかと!
甘寧が一体何を考えているのかわからない。
せめてもの抗議として睨みつけてみる。
すると至近距離で映り込む目の縁が、やけに愉快げに弧を描いた。

嫌な予感。

少し身じろいでなんとか顔を離そうとすると、信じられないことに舌を差し込んで来やがった。ぞっとして肌が粟立つ。
再び肩を押したが、やはりびくともしないので甲斐がない。

噛んでやろうか。

口内を弄ばれながら、ふとそんな思いが脳裏をよぎった。

しかし、実行に移せない自分が情けない。
やつの足を唯一自由な足で踏みつけてやることぐらいしか、大した抵抗にはなってないんだろう。

そんな俺の心の裡を覗いたかのように、甘寧はますます目を細める。
その通りだ、今の俺にはお前を殺せない。

諦めるようにして甘寧から視線を外す。
こうすれば口内の身の毛もよだつ感触も少しは紛れるはずだ。別のことを考えるんだ。

意識を周辺に巡らせるよう努めると、男二人の微かな話し声が聞こえてきた。
甘寧の突飛な行動に戸惑っていたから、気がつかなかったみたいだ。
何を言っているかは、うまく聞き取れない。声が遠いのもあるけれど、そもそもが江南の言葉ではないのかもしれない。

それよりもいい加減、苦しい。そろそろ放せ、と腕を軽く叩いてみたけれど、状況はやはり変わらなかった。

少しすればひそひそ声の主たちは歩き去っていった。足音が聞こえなくなってからややあって、徐に手と口とが離された。

長時間の潜水から水面に上がってきたような気分で、思いっきり咳き込んだ。

「大丈夫かぁ?」

うつむいて息を切らしていたら、降ってきた呑気な声に殺意が湧いた。お前のせいだろ。
呼吸が整うのを待たず、思いのたけ殴りつけてやろうと踏み込んで振りかぶった。
ところが甘寧のやつ、素早く身を返すものだから空振りに終わった。

「いやでも、あの状況は仕方ないだろ?」

仕方がないだと?意味がわからない。
きっと睨みつけてやったが、あちらもあちらで、眉間のしわがやや険しい表情を作っていた。

「あれはよくないお客さんだったろう。西からの」
「えっ」

そうだったのか。
江南の言葉ではないと思っていたが、西の方の言葉だったとは。
そしてまさか間諜だったとは。

少しだけ信憑性がある風に思えた。甘寧が西の生まれだからだ。

なるほど、それなら先ほどの不可解な行動にも、多少なりとも合点がいく。
聞き耳を立てるために俺を黙らせていたということだろう。

それにしても。

「貴様…黙らせるにしてもやり方というものがあるだろう!」
「黙れと言って、はいわかりましたで済むお前なら俺だってお願いしたさ。いい加減、すぐ喚くのはやめようなぁ」

悪びれもせずくつくつと笑う。百歩譲って口を塞いだのは許せても、その手段とこいつの態度は許しがたい。
俺は袖で唇をぐいと拭った。

「別に口で塞がなくても良かったじゃないかと言ってるんだ!」

大声を張り上げると、自分で言っておいて一瞬遅れて、恥ずかしさに顔が熱くなった。
甘寧はちょっとキョトンとしたと思ったら、今度は大笑いしやがった。

「ああ、口じゃなくて…手で覆えば良かったかもな」

悪戯なんだから別に気にすることじゃないだろ、お終いだ。報告に行くぞ。
あっけらかんと言い放たれては取り付く島もない。
先に歩き出した甘寧の背中を睨みながら、自分の唇に触れた。
そこには生々しい感触と怒りがまだ残っている。
突っ立っていると、振り返った甘寧が言った。

「参ったな、初めてかよ?頼むから恋してくれるなよ」


『愛憎交錯7つのお題。』からお借りしました。1です。
1奪われた。/2ささやかな抵抗/3理解、出来ない。/4涙すら棘と為って/5気のせい、なのだと思いたい。/6どうして貴方は。/7微かな芽生え